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 昼時、ちょうど駅の構内に入ったところで、三佳の電話が鳴った。
 液晶に表示されている文字が「七瀬司」ではないことを用心深く確認してから通話ボタンを押す。すると、こちらが名乗るより先に、高い声が聞こえてきた。
「もしもーし」
 発信元はよく知るものだったが、想像していた声と違った。固定電話からなのでそういうこともある。三佳は声の主を特定するのに一拍遅れた。
「───凛々子(りりこ)?」
「おーっす。三佳、今、パパのおつかい中なんだよね〜? お昼ご飯どうするのって、ママが」
「すぐには戻れないから、こっちで適当に食べる。3時頃に帰るって伝えてくれ」
「わーった。あとねぇ、夕飯はお鍋だから、そのつもりでお腹空かせてきてねって」
「了解」
 自然と笑みがこぼれる。
「あれ、そういえば、なんでこの時間に凛々子が家にいるんだ?」
「あのねー。学校に行ってない三佳は知らないかもしれないけど、大抵の学校は土曜は休みなのー」
 そういえばそうだった、と三佳は二の句が継げなくなった。
 そもそも、凛々子の父親が三佳におつかいを頼むのも土日だけだ。平日に外を出歩くと補導されてしまうので。
「用件は以上でーす」

 凛々子からの電話を切ったついでに時刻を確認すると12時を回っていた。
 現在地は自宅から離れた駅の中。お腹は空いてる。次の目的地への移動中。タイミングは、良い。
(お昼、……どうしよう)
 三佳は普段あまり外食しない。いつもはほとんど自分で作って、外で出べるのは凛々子の家か、近所の月曜館くらいだ。こういう状況になってみると、生活の基本である食事をするだけなのに困ってしまった。
 今日みたいに一人だと、外食しづらい、というのもある。小学生が一人で入って一人で食事をしても変な目で見られない店はそう無いだろうから。
(だいたい、外で食事しようとすると野菜は摂りづらいし脂っこいし味も濃いし炭水化物に偏りがちだし…まともな物を食べさせてくれるような店は一人じゃ入れない、ファーストフードは口に合わないし。───あ〜、あいつちゃんと食べてるかな)
 飲食店を物色している途中、関係無いことまで考え始める。
(夕飯は外で摂るって連絡しないと…。今日は祥子もいるし、面倒見てくれてると思うけど)
 最近は篤志の代わりに祥子が事務所にいることが多い。祥子は史緒のことを嫌いと言っていても世話を焼かずにはいられない性格だ。本人は苦労するだろうが、史緒を任せるにはちょうど良い。夕方になれば健太郎と蘭も合流するだろう。
 ふと、三佳は携帯電話に目を落とす。
(司、どうしてるかな…)
 ちゃんと話をしなきゃいけないと解っているのに、三佳は司と顔を合わせるのが怖かった。あと少しで会えなくなってしまうのに。


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