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■05

『ハル! 今日はどこか出掛けるの? 誰と会うの? 何時頃帰る? このあいだみたいのは、もうヤだからね!』
 朝からノエルがしつこくまとわりついてきていて、櫻はいいかげんうんざりしている。ノエルはもう仕事に出掛けるところだ。それでも時間に余裕があるのか、ドアの横で待つマーサは櫻が困っているのを見てニヤニヤしていた。
『二度と、怪我なんかしてこないでねっ。もぅ! ここって治安がいいんじゃないの? いい? ハル。からまれそうになったら逃げるんだよ?』
 数日前、頬を腫らして帰った日から、ノエルは毎朝これだ。頬を腫らしてきた理由について櫻が口を噤んでいると、行きずりに絡まれたと勘違いしたらしい。
『だって、ハル、ぜったい喧嘩しても勝てないじゃん!』
『そうよねぇ。用心棒にもならないなら、ノエルと居させる意味は半減よね』
『マーサっ! 変なこと言わないで!』
『わかったから、さっさと仕事に行ってこい』
『ハル、危ないことはやめてね? 今度、ハルに暴力ふるったヤツに会ったら、あたしがとっちめてやるから!』
 それこそ勘弁してもらいたい。
 もう面倒くさくなって、櫻はノエルの肩をマーサのほうへ押しやった。
『今日は部屋で大人しくしてるから。心配しなくていい』
『ほんと? じゃあ、早く帰るようにするね』
 ノエルは飛び跳ねるように櫻の頬にキスする。屈んでそれを返して、上機嫌になったノエルを見送った。
 ぱたん。ドアが閉まり急に辺りが静まった。櫻は部屋の中に戻り、新聞を手にして椅子に座る。ふぅ、と息を吐いたとき───携帯電話が鳴った。
「……」
 タイミングからしてノエルとマーサでは無い。そのとおり、記憶に無い番号が表示されていた。
 少し前までこのナンバーを知る者はごく少数だった。それなのに、ここひと月の間に多くの人間にばらまかれてしまい、最近はなにかと騒がしい。大方、今回もそのうちの一人だろうと、櫻は通話ボタンを押した。
「だれ? ───……あぁ」
 返ったのは意外な人物の名前だった。その深刻そうな声から、無駄な質問はやめた。わざと嫌みを言ってやるような相手でもない。
「用件は?」
 話の内容は端的で相手の説明手順になんの問題は無かったが、それでも通話を終えるまでに3分かかった。しかし通話の途中で、櫻は動き始めていた。これからの行動を頭の中で組み立てながら出掛ける支度をし、部屋を出るとき、ちょうど通話を終えた。
「今どこ? ───いいだろう。1時間後に駅前で。着いたら連絡する」


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