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2話


 7月××(-5)日。

 都内某所。
 noa音楽企画本社3階、第34会議室。
 『極秘会議中』。
 広さは十二畳程。その中央には円を描く机と椅子、ホワイトボードがある。色調は淡いグレーで統一されており、机・椅子は黒。モダンではあるがある種の硬質感が残るのは設計者の狙いであるとか。
 会議室として決して広いとは言えない。それでも今その狭さを感じさせないのは…いや、逆に室内を広く感じさせるのは、行われている会議の出席者が二人しかいないからだろう。円を描く机の端に、二人は並んで座り、机の上に書類を広げていた。
 noa音楽企画社長、安納鼎(あのうかなえ)
 そしてもう一人は叶みゆき。
 安納鼎は現在四十七歳。ダークブラウンの背広をぴっちりと着こなして風格を漂わせている。十年程前に立ち上げた芸能プロダクションはそこそこに業績を伸ばし、今は大手の一つとして、業界に幅を利かせていた。タレントの育成、イベント企画、音楽CD企画等、どの分野でも斬新なアイディアをもってプロジェクトを成功させている。優秀なスタッフを揃え、そしてかなりシビアなやり手であることでも有名だった。
 一線を退き、既に半隠居に入っている彼だが、年に一度、彼自身が直接手掛けるプロジェクトがあった。
 「B.R.プロジェクト」。そう呼ばれている。しかしそう呼ばれてはいても、プロジェクト自体を知る者は殆どいない。事務所のスタッフさえも知らない。その特異さ故にプロジェクトは極少数の関係者にしか知らされておらず、さらにこのプロジェクトは社長自ら手を付け、かなりワンマンで行われていることも事実だった。
 だから現在この会議に参加しているのは二人──。それが定員で、全員なのである。
「……叶」
 不機嫌さを声色に含めて、安納は呟いた。
「あ、はいっ。あの、え…っと、ではもう一度、説明致します」
 叶みゆき。あまり手を入れてないような無造作なロングヘアに眼鏡面、これでも現役女子高生で十七歳。その、あまり要領の得ない喋り方は、少なからず安納の癇に障ったが、特にそれを注意するようなことはなかった。それはある意味諦めに近い。注意して治るものなら三年前に治っているだろう。
「B.R.のサードシングルの曲目は、…あ、この三曲です。オン・エアは八月十日頃。CDリリース予定日は八月二十五日です。例年通りカラオケは入れません。…えっと、スタジオのほうの都合がよろしければ、来週からにも撮り始めたいと思います」
「……そうだな。スタジオと、レコード会社のほうへは私が手を回しておく。CDジャケットのことも、そろそろ決定しなければならないだろう。オン・エアが十日だとすると…、宣伝や広告のほうも迅速に行動しなければなるまい」
「………」
「まぁいい。雑務はこちらに任せて、叶は早速メンバー招集にかかってくれ。以上だ」
「わ…わかりました」
 勢いに押されたかたちで、みゆきは頷いた。安納はそのまま何も言わずに立ち上がり、何の挨拶もせずに部屋から出ていった。
 みゆきはぷつと緊張の糸が途切れ、書類が散乱している机に伏し、大きな 大きな溜め息をついた。







 7月××日。

「相変わらず社長ってば、かっこいいおじ様だよね〜。穏やかで、優しそうだし」
「ばっかじゃねーの。業界でトップクラスの事務所の社長だぜ? 単に穏やかで優しいわけないだろ。営業用だよ」
「なによー。わかんないわよー?」
 事務所で社長との顔合わせが済むと、一行は揃って移動を始める。その途中の車の中で、片桐実也子は中野浩太の言葉に頬をふくらませていた。8人乗りの中型のバンは事務所のもので、長壁知己が運転している。これから郊外にある馴染みのスタジオに向かうのだ。

 メンバーやスタッフ、所属事務所さえ公表されていないメジャーバンド『B.R.(ビーアール)』。夏にしか出さない曲の数々だけは、チャートやCD売り上げランキングに名を列ねている。世間の噂では色々と憶測が飛び交っているようだが、その実、年に一度招集されるだけの、地方の一般人であることは極秘事項だった。
「俺は反って、あの社長は俺達個人には何の興味も持ってないように思えるね」
「なに、浩太。『B.R.』ってゆー商品として以上の興味を持たれたいわけ?」
 辛口で乾いた意見をさらりと口にしたのは、最年少の小林圭だ。
「論旨が違うだろ」
「中学生にしてはスレた意見ですねぇ」
 山田祐輔は圭の言葉に苦笑をもらす。
「フツーだよ、これくらい。祐輔は?」
「僕…ですか? そうですね、僕自身、あの社長に興味は無いので、深く考えたことはないです」
 涼しい顔で切り捨てられて、圭、浩太、実也子は顔をひきつらせた。
「えーと、……あー、かのんちゃんはどう思う?」
「えっ?」
 助手席で知己のナビをしていたみゆきは、突然話を振られて驚いたようだった。運転席と助手席の間から顔をのぞかせる。
「はい、何ですか?」
「安納社長ってどんな人? かのんちゃんなら詳しいんじゃない?」
「…そ、そんなことありません。他の仕事のことは全然知らないし…」
 もう少し何か続きそうだったが、うまくまとまらないのかそれ以上は言葉にならなかった。大袈裟な程に否定するみゆきの姿は逆に怪しくも見れる。しかし器用にごまかせる性格でないことは周知であるので疑う者はいない。
 みゆきの隣の運転席から声がかかった。
「おい。それより実也子、楽器、ホテルに置いてあるんだろ? 寄るから持ってこい」
「あ、はーい」

 ボーカル、小林圭、十五歳。
 ギター、中野浩太、十八歳。
 ベース、片桐実也子、二十一歳。
 キーボード、山田祐輔、二十四歳。
 ドラム、長壁知己、三十四歳。
 そして『B.R.』のプロジェクト発案者であり、責任者であり、作詞作曲とディレクターを担当する叶みゆき、十七歳。
 彼ら6人が『B.R.』のメンバーである。
 特記すべきことは、ボーカルの圭は変声期前のボーイ・ソプラノで、世間からは性別も判別できず、正体不明という点に一役かっている。ベースパート担当の実也子は、一般に使用されるエレキ・ベース・ギターではなく、オーケストラでも使われるコントラバス(弦バスともいう)を用いている。これは実也子の背丈以上に大きく持ち歩きが困難な為、ホテルに預けていたのだ。
「…なぁ、かのん。俺らが泊まるのもそのホテルなんだろ?」
 窓から目を放し、浩太はみゆきに声をかけた。
「ええ。…社長の言い付けで、例年通り一週間程3部屋を予約しました」
「何か…、むちゃくちゃ不毛だと思わん? 毎年、ホテルで寝れるのって初日だけじゃん。あとは連日スタジオでカンヅメ。わかってんなら予約なんて無駄だと思うけどな、俺は」
「え、…はぁ」
「中野! かのんちゃん困らせるのやめなよー。それに本当はカンヅメなんかしないほうがいいんだから。ホテルで休んだほうが疲れもとれるし。そういうところ、気ぃ利かしてくれてるのよ」
 車の後部席前方に座っている実也子が振り返り、あからさまな睨みを浩太に向けた。対する浩太にはそれについて激しい異論がある。
「……てめぇが率先してカンヅメ楽しんでるんだろうが」
「ぎく」
「いい齢してお泊りごっこではしゃいでんじゃねーよ。それに、カンヅメにまで追い込まれるのは誰かさんのNGが多いからじゃないのか?」
「誰かさんって、誰のことよっ」
「自覚がある奴。無いなら救いようがないな」
「中野っ! あんた圭ちゃんに年上に対する態度云々言うくらいなら、私に対する態度も改善しなさいよっ。私のほうが年上なんだからねっ」
「そー言うなら、おまえだって祐輔のこと呼び付けじゃねーかっ」
「お互いさまでしょっ!」
 二人の刺のある会話をどう宥めようかとオロオロしているみゆきに、すぐ隣から声がかかった。
「あの二人は大丈夫。喧嘩を楽しめる奴等だから。…浩太のは悪気はないんだ。気にすんなよ」
「……はぁ」
 笑いながらの知己のフォローに、みゆきははっきりしない言葉しか返せなかった。

(………)
 知己はそう言うけれど、浩太の言葉の一つ一つはみゆきの胸を刺す。
 ちょっと苦手。
 気の良い仲間の中でも、みゆきにとって中野浩太はそんな存在だった。







 7月××(±0)日。

 毎年レコーディングを行うスタジオはこじんまりとした一軒家で、これはnoa音楽企画の所有物だった。
 全板張り・防音の「スタジオ」は、音響器材やコンソールのあるPA室と、ガラスで隔てられた、スピーカーとマイクが並ぶ録音室から成る。建物の中には他に給湯室と座敷が2部屋。先ほど浩太が言ったように合宿中カンヅメになると、座敷は仮眠室と呼ばれるようになるのだ。
「じゃあ、3時から音合わせ始めますので、よろしくお願いします」
「おっけー」
「了解」
「はーい」
 みゆきが指示を出すと、それぞれは準備にかかる。
「あ、かのんさん。器材の電源入れておいてくれます?」
「そうそう。早くねー」
 準備と言っても、バンドメンバー全員は座敷に荷物を放り出すと、競うかのように録音室に駆け込み、それぞれ音出しを始めた。
 板張りの壁、床、天井は伊達ではなく、勿論、音を響かせる為のものだ。窓もなく閉塞感は拭えないが空調は整えられている。
「わーい、圭ちゃんの歌、久しぶりだよー」
 実也子は自分の楽器の弓を整えながら嬉しそうな声を出した。発生練習を始めていた圭は少し照れた顔で、
「何だよ。CD持ってんだろ?」
 と、マイクに向けて言う。みゆきが器材の電源を入れておいてくれたらしく、その声はスピーカーから響いた。
「生とは全然違うもん」
「浩太、お前、いつ練習してんの?」
 ギターのチューニングが始まる。知己もドラムを叩き始めると、室内は一気に音でいっぱいになった。
「んー。たまに、バンドの助っ人したり、部屋で鳴らしたりする程度だよ」
「いい加減、直んないのな。そのカッティングのときのクセ」
「個性がある、って言ってもらいたいね」
「あー、そうそう。そういえば、この間、うちの教室に高校生の女の子が入ってきましてね」
 一斉に音がやんだ。これは祐輔の口から女子高生の話題が出るなんて、という少々悪いほうの興味が全員に働いた為と思われる。
「うちの教室」というのは、祐輔が地元で開いているピアノ教室のことだ。
「好みだったとか?」
「違いますっ」
 圭のとぼけた言葉に笑いが生じる。気を取り直して祐輔は話し始めた。
「小さい子ならともかく、ある程度大きくなってからそういう事を始めるのって、やっぱり理由があるんですよ。それでピアノを始める動機を尋ねたら、何て答えたと思います? 僕、すごく驚いて危うく教本を落とすところでしたよ」
「さあ」
「見当つかないよー」
 くすくす笑いながら、祐輔は答えた。
「“『B.R.』の曲を演奏したい”だったんです」
 は? と、誰かが口にした。
「誰に頼んだのか、耳コピの楽譜まで持参してましたよ。確か、出版社からは出てませんでしたよね」
 正体不明と言っても、『B.R.』の曲はもちろん、著作権登録されている。しかし社長はがんとして版権を手放さず、CDの他は、謎解き本、特集本、そして楽譜も、法的に製作は許されていない。自分で作るしかないのだ。
「あっはっは、そりゃ、驚くわ」
「本人が目の前にいるのに〜」
「楽譜はこいつに頼んだほうが早かったな」
「いえいえ、本当にあの時は驚いて、もしかしてバレてるのかとか深読みしちゃったんですから」
 祐輔のその場面を想像して、他の面々はやはり笑うしかない。
 『B.R.』は絶対何があっても正体を明かしてはいけない。
 それでもそんな一場面を、楽しめるくらいはするのだ。


 みゆきはPA室のドアを開けた。
「あ…」
 録音室で5人が楽しそうに喋っているのに気付き、気が引けて、声をかけることに一瞬ためらう。しかし既に、自分が入室したことに気付いたメンバー達はそれぞれの立ち位置に戻り、楽器の音を止め、みゆきの指示を待っていた。
「……」
 何となく、溜め息をついてしまう。
 彼女は未だ、自分の立場で、うまく立ち回ることができないのだ。仲間たちは、こんなにも協力してくれているのに。
「えー…と。音合わせ、始めてもよろしいでしょうか?」
『はーい』
『よろしくお願いしまーす』
 向こうの部屋とのやりとりは全てマイクごし、スピーカーごしで行われる。
 みゆきは気を引き締めるように一度深呼吸をする。
 ヘッドフォンをつけ、コンソールの前に座った。
「では、長壁さんのバスドラからお願いします」
 指示通り知己が音を出すと、みゆきは手元のミキサーで調節を始めた。







 7月××(+1)日。

「おつかれー」
 外に出ると、空はもう真っ暗だった。この季節でも時間が午後8時では無理もない。
「お疲れ様っ」
「腹減ったー。何か食ってこーよ」
「ホテルのは嫌だ。高いから」
「事務所のお金なんですけど……。ま、気持ちはわかりますよ」
 百メートルも歩けば、賑やかな通りに出る。6人はそこでささやかな夜遊びの計画を立てているところだった。
「かのんちゃんは?」
 実也子が声をかけると、みゆきは申し訳なさそうに苦笑した。
「あ…。すみません、私は用事があるので」
「え。ホテルの鍵、どーする? 私、先に寝ちゃうかもしれないし」
 この合宿期間の間、みゆきと実也子は同じ部屋に宿泊しているのだ。
「十一時までには帰ります。その頃に、連絡入れますね」
「うん。わかったー。今度は付き合ってよね」
「はい。すみません」
 何度も振り返りながら、みゆきは駅の方向へ消えた。実也子もまた、大きく手を振ってみゆきを見送った。見えなくなるまで実也子はその場を離れなかった。
「ねえ」
 後ろの4人に話かける。
「どした?」
 神妙な顔で振り返り、声色を改めて言う。
「今日、3曲合わせたじゃない? どう思った?」
「どういう意味で?」
「Kanonの曲」
「おい」
「あ…、ごめん、気をつける」
 知己が割り込ませた厳しい声に、はっと目をみはり実也子は気まずそうに肩を竦めた。『B.R.』プロジェクトで、ただ一人公表されている名前、"kanon"。不用意に口にして誰に聞かれるとも限らない。
 『B.R.』のCDは、レコード会社名以外のスタッフは無記名となっている。演奏楽器やプロデューサー、エディター、ジャケットデザイナーなど、役職名は書かれているが、その右側は空欄になっているのだ。こうすることで、聴衆の興味を引かせるのだと、安納社長は言っていた。その空欄に当てはまる名前を探すようになる、と。
 明らかにされている名前が一つだけ。
「All songs,composed and arranged by ; Kanon」
 『B.R.』が実力派と言わしめられている理由の一つは、曲。その作詞作曲家の名前である。
「彼女の曲。やっぱりすごいと思って」
 実也子が真摯な顔でそう言うと、メンバー全員黙って目を合わせた。
 今日の練習で、今回リリースさせるシングルの3曲を合わせ、おおまかな打ち合わせをした。打ち込みのデモテープを聞かせられたときの感銘は3年目にしても変わらなかった。
「…独特なリズムがあるよね、でもちゃんとJ-POPというジャンルに収まってる。どっちかっていうと玄人受けする音楽だと思うんだけど、これだけヒットするのはちょっと不思議」
「意外と理屈っぽい考え方するんだな」
 嫌味をこめて浩太は実也子に言った。
「悪かったわね」
「やっぱり営業の力なんじゃない?」
「うちの社長は、決して売り方が巧いわけじゃない。ウチのバンドの秘密主義な点を除けば、あとはスタンダードなCMだけだからな」
「でもそれはしょうがないことですよ。巧い売り方なんて、所詮は人脈とアイディアと行動力、それとお金でしょ? アイディアとお金はあっても、その他は秘密主義とは相容れないものですから」
 安納社長には勿論人脈と行動力は備わっている。例外もあるだろうが社長とはそういう生き物だ。しかし『B.R.』の所属事務所も公表されていないのに、安納が派手に動けるはずもない。
「だけど何故か、売れてるんだよね」
「いいものは受け入れられる…ってことかな」
 Kanonの曲を演奏する彼らではあるが、同時にKanonのファンでもある。『B.R.』はKanonと同じプロジェクトに籍を置くアーティストであり、同時に唯一存在する"Kanon"のファンクラブでもあった。
「当のかのんだけど、用事って言ってたじゃん? さっき。男かな?」
 雰囲気を一変。圭は浩太のほうを見てひやかすように言った。
「中野ってば、駅まで送ってくくらいしたほうがよかったんじゃない? 株があがったかも」
「……どーいう意味だよ」
 圭と実也子の何か言いたそうな視線に、浩太は無愛想な声で、軽く二人を睨み付けた。
「えー。浩太って、かのんのこと好きなんだろー?」
「…っなんでそーなるんだっ!」
 浩太はとても分かりやすく真っ赤になって、圭の襟を掴んだ。
「あれ? 違うの?」
 声を出せない圭の代わりに実也子が言った。
「違うっ!」
 そういうけれど、咄嗟の場面で嘘をつけないのが中野浩太という人間だ。もう誰が見てもわかるほどの狼狽ぶりを見せ、それでも否定し続ける姿は、よいからかいの的でしかない。
「おまえらー」
(……)
 浩太がみゆきに向ける感情は、他のメンバーと同じもののはずだ。決して特別なものじゃない。
 Kanonの曲の音楽性───。あの曲、歌を創り出す人間に、興味がないはずは無いではないか。それを棚にあげて浩太だけが特別視されるのは筋違いというものである。浩太はそう思っている。
「二人とも。それ以上苛めるのは可哀相ですよ」
「祐輔っ! お前もかっ」
「おや、この話題、ひっぱるんですか」
「……っ」
 祐輔の一言で、浩太は口を閉ざした。こうなると、圭と実也子は浩太に同情してしまい、黙るしかなくなる。一応これでも、祐輔は浩太の助け船を出したつもりなのだ。







 7月××(+2)日。

『OKです。お疲れさまでした』
 スピーカーから響くみゆきの声に場の空気は緊張を解き、一同は疲労の為か溜め息をついた。
「はー」
「やっぱり、こうなったか」
 こうなったか、というのは、すでに時間は夜中の1時を過ぎ、スタジオに泊まり込むことが決定したということである。
「かのんも、はまると長いから」
 マイクが会話を拾ったのか、みゆきは体を小さくさせた。
『ごめんなさい』
「褒めてんだよー」
「ま。早く寝て、明日もがんばりましょう」
 そんな言葉で締めくくる。さすがに3年目で慣れているのかそれぞれは録音室を引き上げ寝床の準備にかかった。

 その日の夜、女性陣の部屋ではこんな話題になっていた。
「えーっ! かのんちゃん、好きな人いるのぉっ?」
 大声を出したのは勿論実也子だった。
 もう夜遅くて、明日(今日?)もあるのに二人は寝付けず、いくつか言葉を交わしている間に盛り上がっていた。
「実也子さん…っ、声、大きいっ」
 眼鏡を外し、いつもと印象が違うみゆきは珍しく声を高めた。
「え、あ…ごめん」
 隣の部屋には男連中が寝ているのだ。
 実也子とみゆきは頭を寄せ合うかたちで備え付けの布団を敷いて、広い座敷を贅沢に使っていた。
「何? 付き合ってるの?」
「違いますっ! ……片思いです」
「どんな人なの?」
「…どんなって言われても」
「かのんちゃんは、その人のことどう思ってる?」
 容赦のない実也子の問答に押し切られ、みゆきは真剣に考え込んでしまう。適当にごまかすことを知らない真面目肌。それを知っている実也子は急かさずに待った。
 しばらく悩んでから、みゆきは無意識に声を発した。
「……“昔からの夢を叶える為に努力して、実現させてる人”かな」
 私も、その夢を少しだけ手伝わせてもらってるんですよ、と付け足す。
「…」
「あ、ごめんなさいっ。変なこと言って」
「変なことじゃないよっ! すっごく素敵じゃない。かのんちゃんの好きな人かー。会ってみたいな」
「…そうですね。機会があったら、紹介したいです」
「すごく身近な人?」
「ええ。長い付き合いではあります」
「その人の夢って何なの?」
「…ごめんなさい、秘密です」
 申し訳なさが混じった笑みのみゆきを見て、実也子は微笑ましく思いながらも頭の片隅で、中野浩太に合掌していた。







 7月××(+3)日。

 この日も音撮りが終わったのは日付が変わってからで、前日同様、皆、ほとんど倒れ込むようにその場は解散になった。はずだった。

「きゃっ」
 PA室のミキサーの前に座っていたみゆきは、突然背後から肩を叩かれ短い悲鳴をあげた。咄嗟にヘッドフォンをはずし振り返ると、そこには浩太が立っていた。
「おい、まだやってんのか」
「……びっ、お、驚かせないでくださいよ…」
 みゆきは必要以上に大きく響く自分の心音を静めようと大きく息を吐いた。だいたい浩太たちは寝たはずではなかったか。
「どうしたんですか? 浩太さん」
「それはこっちの台詞だ。もう2時だぜ」
「ええ」
 そうですね、とみゆきは付け足す。察しの悪さは知ってはいたが、例えそれを知っていても浩太をイライラさせた。
「…早く寝ろって言ってんだよ」
 低く響く声に気圧されながらも、ようやくみゆきは浩太の気遣いに気付いた。
「え? あ、はい。……ありがとうございます。でも、もう少し」
「まだ時間はあるだろ」
「作業遅れてるので」
「別に、待ってるよ、俺達は」
「そんな、迷惑かけます」
「────」
 遠慮がちに苦笑するみゆきに、浩太は一段と厳しい視線を返す。が、みゆきは違う方へ目を向けていたので、それには気付かなかった。どうも噛み合わない会話に浩太は溜め息をつき、口を開いた。
「あのさぁ」
「はい?」
「前から思ってたんだけど」
「? …ええ」
「あんた、俺達と同じ、『B.R.』のメンバーの一人だっていう自覚、足りないんじゃないか?」
 え? とみゆきの口が動いたが声にはならなかった。
「俺がギターでトチっても、かのんが編集作業遅れても、みんな俺たちの仕事だ。それを一人、無理してる、ってのはおかしいだろ」
「……考えたことも、ありませんでした」
 消え入りそうな声、しかし目線はしっかりと、浩太の目を見つめていた。
「だと思ったよ」
「…」
「いいから、今日はもう寝ろよ。あんまり遅いと、今度はミヤが呼びにくるぞ」
「あ、はいっ。……ありがとうございます」
 ちょこん、とみゆきは頭を下げた。

(……何、やってんだか。俺)
 薄暗い廊下を歩きながら、浩太は自己嫌悪にも似た思いに駆られていた。
 先程の自分の発言を思い出すと、何やら自分がみゆきのことを心配しているように見えるではないか。
 もし圭や実也子に見られていたら、また勘違いされるようなことになっていただろう。
 みゆきが心配? それは違う。
(違う。…ただ、イライラさせられるんだ)
 あの性格、あの言動に。
 はっきりしない物言い、いつもおどおどした挙動不審さ、そうだそれに。
(イメージが合わないんだ)
 考え込みながら、廊下の角を曲がった。
「相変わらず、不器用な奴」
「うわっ」
 暗闇の中からの声に、浩太は飛び上がった。
「言いたいことは分かるんだけどねー」
 圭に実也子、それに祐輔と知己。そこには寝ていたはずのメンバーが全員揃っていた。
「お前ら…、いつからっ」
「いつからでしたっけ?」
「浩太が部屋出たところから、だな」
「……っ」
 憤り、というより先程の会話を聞かれたことの恥ずかしさが浩太から言葉を奪った。ぱくぱく動く口から声が出るより先に実也子が言った。
「中野のさ、言いたいことはわかるの。かのんちゃん、無理してるし、あんまり 
 自分のこと考えてないしね。始末悪いことに、鈍感なところもあるし…」
「実也子さん…そこまで言わなくても」
「えー、でもミヤの言ってることは正しいよ。かのんが鈍感だからはっきり言わないと伝わんないってことだろ?」
「圭ははっきり言いすぎ」
 こつん、と知己は圭の頭を小突く。
「お前らな〜」
「とりあえずもう寝ましょう。明日…もう今日ですが、休日なんですから。寝過ごしたらもったいないですよ」
「ねーねー、私もそっちで寝ていい?」
 実也子の発言に男性陣はひいた。呆れた声が返る。
「何考えてんだっ、おまえは」
「実也子さん……」
「だってー、絶対おもしろそうなんだもん」
 拗ねる実也子にダメ押したのは知己だった。
「駄目だ」
「うー。つまんなーい」
 約一名、不満を洩らしながらも本当の本当の本当に、この夜は解散になった。







 7月××(+4)日。

 広めの給湯室にはテーブルが置いてあり、メンバーたちはそこで食事をすることにしている。
「おっはよー」
 練習がない、中休みの今日。寝過ごした圭が給湯室のドアを開けると、そこには祐輔が新聞を広げていた。
「おはようございます。圭」
「あれ? 他の皆は?」
「浩太は学校の部活に顔を出さなきゃならないとかで朝早くに。かのんさんは何やらバタバタしてて、ついさっき出かけました。長さんと実也子さんはデートらしいですよ」
「あ。やっぱあの二人ってそーいう仲なんだ」
 分かりきっていた答えを聞かされたように、そっけなく言いながらテーブルにつく。手を合わせて「いただきます」と言うと、圭は用意してある朝食に手を付け始めた。
「どうでしょうね。実也子さんが無理矢理連れ出したという感もありますけど」
「またまた。祐輔もわかってるくせに」
「黙ってたほうが面白いこともあります」
 薄笑いを浮かべ新聞をめくる祐輔を横目で見やり、圭は食パンをくわえながら軽い溜め息をついた。こんな性格を隠そうとしない彼なので、きっと知己や実也子も自分たちがネタにされていることに気付いているのだろう。
「祐輔は? でかけないの?」
「大学時代の友人に会ってこようと思います。圭は?」
「俺はじーちゃん家に顔出さないと。一応、それを理由に家出させてもらってるから」
 夏休みといえど一週間も家を空けるには、中学生にはそれなりの理由が必要なのだ。孫に甘い祖父母に協力してもらい圭は東京に来ている。
「未成年も大変ですね」
「大変ていうか…。まぁ、『B.R.』に居るのはいい勉強になるよ。反面教師がいっぱい居るし」
 圭の言葉を聞いて祐輔は新聞の向こうで吹き出した。
「今の台詞は聞かなかったことにしてあげますよ」




 数えられない程の足音と、ぬるく浸かれるような喧燥。
 中野浩太は久しぶりに出会う不特定多数の人々に戸惑いながら、見慣れた通学路を歩いていた。久しぶりというのはここ数日は決まった顔しか目に入らなかったからだ。ついでにここ数日冷房の効いた室内にしかいなかったので、真夏の日差しは耐え難いものがある。制服であるワイシャツの背中はあっという間に汗だくになり、不快指数を上昇させていた。効果がないと分かっていても、つい学生鞄で顔を扇いでしまう。皮製の鞄の匂いを受けながら、浩太は考え事をしていた。
(かのんと、kanonの曲はどうもイメージが合わない)
 浩太は常々そう思っているが、それを口にしたことはない。
 叶みゆきが『B.R.』の曲を創っている。それは知っているが、どうもピンとこない。何よりも圭が歌うあの詞をみゆきが書いたとは、浩太は思えないでいた。
 下手に口にしても、実也子あたりに怒られるだけだろうし、別にイメージに合わないからどうしようと思うわけでもない。Kanonとの違和感が拭えず、叶みゆきがどんな人間なのかつい口を出してみたり観察したりしてしまうわけだが、それは周囲にあらぬ誤解を招いているようだ。
(じょーだんじゃねーっつーの)
 声には出さず、そう呟いた。
「…?」
 おや、と浩太が目に止めたものがあった。
 二〇メートル先、歩道の車道側、ガードレールに手をかけて道端に座り込んでいる人影がある。胸に手を当てて、肩が大きく揺れている。もちろん寝ているわけではない、それにホームレスにも見えない。
 道端にいるため、周囲の迷惑になることもなかったが、行き交う人々はその人影を目に止めても立ち止まることはしなかった。
 浩太はその人影に駆け寄った。
「おい、具合でも悪いのか?」
 とりあえず声をかけてみる。額を抑えうずくまっている人物からは返答がない。性別は男性。子供ではないようだ。
「おい」
 本格的に心配になって語調を強めると、男は上体を起こし顔を上げた。
「あ、すみません」
 微かに笑い、思いのほかしっかりした声を返す。
「大丈夫です」
 血の気が失せた顔。本当に大丈夫なのか浩太は疑ったが、浩太の手を借りて危なげながらも立ち上がったところを見ると、全くだめだというわけでもないのだろう。
 十六…十七歳くらいだろうか。多分、自分と年齢は近いんだろうな、と浩太は思う。
 背丈は並みだが浩太よりは低かった。人懐っこい性分なのか、浩太と目が合うとにっこり笑った。
「ありがとう」
 その言葉が手を貸した自分に対するものだと気付くと、浩太は真正面に礼を言われたことに照れた。
「いや…、あ、誰かに連絡取るとか、病院行ったりしたほうが──」
「あ、平気、気にしないで。だいぶ楽になったし」
「でも」
「本当に大丈夫。…実を言うとただの寝不足なんだ」
 気恥ずかしそうに頭を掻いて笑う。あ、そう、と浩太は気が抜けるのと同時に安心感を覚えた。
「いくら寝不足だからって、こんなところで倒れてると踏まれるぞ」
 相手の話しやすい人柄も手伝って、浩太は冗談半分に言う。
「あはは、ほんとにね」
「大人しく家で寝てれば?」
「そういうわけにも…──って、わっ、今何時っ?」
 突然、大声を出し、時計を探しているのか鞄やポケットを荒らし始めた男に、浩太は手首を向け時計を見せた。
「十時十五分」
「やばいっ、先生、時間に煩いのにっ。ごめん、僕、電車の時間があるんでっ」
 慌ただしく去ろうとする男に、浩太は気を付けろよ、と声をかけた。
 すると男は満面の笑みを浮かべて大袈裟なほどに手を振る。
「うん、ありがとう。じゃあっ」
 名前くらい聞いておけばよかったな、と、走り去る背中を見ながら浩太は思った。


*  *  *


 浩太と別れた後も、所々で休みながら彼はどうにか目的の場所へとたどり着いた。
 神経研究所附属理和病院。
 赤煉瓦の仰々しい門構えで、その向こう側には緑の葉が茂った並木が続いている。そして青い空。それらの色の対比を、彼は気に入っていた。
 その門柱から上体を起こした人影があった。
希玖(きく)っ!」
 長い髪を揺らし、眼鏡をかけた少女が駆け寄る、……叶みゆきだ。
「あれー。みゆきちゃん、どうしたの? 確か、今、合宿の最中じゃなかった?」
「……」
 息を上げてうまく声にならない言葉を、息継ぎの間にどうにか押し出そうとする。元々、彼女は言葉でものを伝えるのは上手くない。それを承知している彼はにこやかに微笑みながら待った。
「…どうしたのじゃないよ。家に行ったら病院へ行ったって言うし、病院に来てみたらまだ来てないし……。先生も慌ててるし。途中で発作起こしてるんじゃないかって、すごく心配したんだよ?」
 体調を気遣うように顔を覗き込むみゆきに、希玖はにっこり笑って返した。
「あはは、ごめんごめん。駅で休んでたら時間くっちゃって」
「大丈夫なの?」
「ああ。…途中で眠りこけるところだったけど、親切な人が手を貸してくれたりね」
「あんまり無理しないで…ね」
 二人は揃って歩き始めた。
「みゆきちゃん。僕、さっき、中野浩太に会った」
「えっ?」
「駅の近くでね。そういえば彼は東京の人間だったよね」
「希玖……」
「あんまり話できなかったんだけど、挨拶くらいしておけばよかった?」
 心配そうな視線を向けるみゆきに、希玖は笑って返した。
 この、理和病院のN2棟に週1回、安納希玖は通っている。







 7月××(+6)日。

 朝十時。スタジオの仮眠室からそれぞれが這い出てくると、PA室には安納鼎が来ていた。みゆきも先に来ていて、安納にコーヒーカップを手渡すところだった。
「あれー、社長だー」
 眠気がさめきってないのか、圭が敬語も忘れて声を上げる。
 なだれ込むように入室してきた5人に動じもせず、安納は穏やかに言った。
「一週間ご苦労様。叶から、無事音撮りが終わったと聞いてね。後は叶とこちらの仕事だ。まかせてくれ」
「かのんちゃんの?」
 終わったのではないかと首をひねる実也子に、みゆきは苦笑して返した。
「…編集サイドの仕事はこれからですよ。あと2、3日はかかります」
「えっ? もしかして、毎回そうなの?」
「仕方ないよ、片桐さん。叶の仕事は、この一週間でどれだけ君らの音を撮れるかだからね」
 それにしても、今年は例年より早かったな、と安納は苦笑混じりに付け足した。一週間という期限、余裕をもって終了できたのは初めてなのだ。ついでに言うなら、毎年締め切り間際のドタバタ劇はかなりのもので、安納がスタジオを訪れた時、5人はスタジオで寝こけていたこともあった。それを思い出して安納は苦笑したのだ。
「これからの予定ってどうなってるんですか?」
 実也子が尋ねた。
「そうだな。来週には有線で流すよ」
「すごく早いんですね」
「もちろん、他のアーティストではこうはいかないさ。『B.R.』はいつもタイアップ無しだから、事前に発表しておくべきスポンサーやお偉方がいないし、特別なお披露目もないし、派手な商戦もない。そういうところで機動力があると言える。…ああ、あと有線とほぼ同時にテレビCMもやるよ。でもこれは私が一ヶ月前から動いているので、早いとは言えないかな」
 経営者らしい一面を見せて安納は答えた。
 この一週間で創られた音楽は、一旦完成してしまえば後は営業サイドに引き継がれる。秘密を守る為、できうる限り小人数のスタッフで製作されている『B.R.』のCDだが、それでも十数人もの人間が関わっている。出来上がってきたCDを手にすると、やはり会ったこともないその存在を感じずにはいられない。
 自分たちは形のない音しか提供できない。
 それが銀色の円盤になり、ジャケットがつき、ケースに収められ店頭に並べられる。
「CDは八月二十五日発売予定だ」
「あ、予約しとこ」
「毎度のことだが、よければプレス後に送るよ?」
「なんかありがたみが薄れる」
 安納の問いにそう言ったのは圭だが、全員、同じ気持ちだった。
「そうそう。私たち、この合宿を終えたら単なる『B.R.』のファンなんです。聞きたいものは自分で手に入れなきゃ」
「そーいうこと」
 小林圭、中野浩太、片桐実也子、山田祐輔、長壁知己。
 5人は揃って同じ笑顔を見せた。
 安納は複雑な表情で苦笑した。
「君達のいいところは、その自己顕示欲の稀薄さと自分達の音に必要以上のプライドを持っていないところだな」
「……誉められてると受け取ってもいいんですか? それ」
 知己が訝しそうに、しかし控えめに安納に尋ねた。
「勿論。そうじゃなければ、このプロジェクトは成立しないよ」
「そりゃまあ、目立ちがり屋にはこのバンドは務まらないでしょうね」
 祐輔の言葉に笑いが生じた。
 三年前、『B.R.』結成直後。この5人は「バンドはやりたいけど、顔は出したくない」という点で意見が一致していた。理由は聞いていないが、それぞれ思うところがあるのだろう。その希望を吸収し、今の『B.R.』のかたちにまとめたのが安納鼎、そして叶みゆきだった。
「今年もおつかれさま。来年も頼むよ」
 じゃあ、私は仕事があるから。そう言って安納は部屋を出て行く。
 メンバーがそれぞれの会話をし始めるなか、安納はドアにたどり着く手前、みゆきの前で足を止めた。
「叶」
「…はいっ」
 安納の抑えた低い声に、返すみゆきの声も自然に小さくなってしまう。
「お前にはCD制作の会議に出てもらう」
「分かりました…」
「あいつにも企画書は渡してある。回収しておいてくれ」
「はい」
 用件だけ言って、安納は背中を見せた。歩き去る姿に、みゆきは複雑な思いを感じていた。




*  *  *




「今年の夏も終わってしまいましたね」
 来たときと同様、5人は東京駅に集まっていた。
 祐輔が言ったのは、もちろん季節としての夏ではなく、『B.R.』の活動期間についてである。
 『B.R.』のメンバーはそれぞれの連絡先を知らされていない。お互い、教えあってもいけない。このプロジェクトが始まったとき、そう、言いつけられていた。
 理由はやはり秘密保持。このメンバーの付き合いがどんな偶然であれ、ばれては困るからだ。だから会うのは勿論、話をするのもこの期間に限られる。
 唯一、全員の連絡先を知るのは叶みゆきただ一人だった。
「もーっ、毎年、このときだけは淋しいっ」
「でも、一年って結構短いじゃん」
「来年はもう少し、腕あげておく」
「とりあえず、正体バレないように気を付けます」
「おつかれ。来年もよろしく」


「じゃあ、またっ。1年後に!」
 そう言って、3度目の夏は終わった。







2話 END
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